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『冬の草原のエピソード②』


「ホーログ」


 このホーログには、ちょっと苦い思い出がある。

 やはり初めてゲルに滞在した時のことだ。

 嗅ぎタバコで交す挨拶がある、ということは聞いていたが、詳しいことは知らなかった。

 私がゲルに一人でいると、このゲルの主人の伯父さんに当たる人がやってきた。

 そして、「ホーログ、ホーログ」と言いながら、嗅ぎタバコが入った容器を私に渡そうとする。さらに中の粉を実際に吸えという身振り。

 私は、もしかして粉が麻薬に類するもので、吸った後に体調に影響が出たらどうしようと思ったので、きっぱりと「NO」と言って断った。

 するとその伯父さんは、態度を変えて烈火のごとく怒り始めた。

 「お前は俺のホーログを受けられないのか、いいから吸え」と掴み掛からんばかりに私に迫ってくる。

 何度断っても、執拗に食い下がる。

 困り果てていると、タイミングよくこのゲルの主人が戻って来た。

 主人はすぐに状況を察して、そのホーログを伯父さんから拝借し、蓋を開け、蓋に付いている耳掻きのような匙で、中の粉を取出した。

 そしてそれを人差し指に載せ、私に目配せをしながら、こうやるのだと、鼻で思いっ切り吸う仕草をしてみせた。


 そうか真似でいいのか。


 私は人差し指に載せた粉を、伯父さんが目をそらしたスキに親指で弾き飛ばし、一気に鼻で吸い込む真似をした。


 やっと伯父さんの怒りは収まったらしい。大切そうにホーログを懐に仕舞い込むと、自分のゲルに戻って行った。


 後で知ったことだが、中の粉を吸いたくない時は、容器の蓋を嗅ぐだけでいいそうだ。

 モンゴル独特の初対面の挨拶。


 ちなみに、嗅ぎタバコ愛好家達は、皆それぞれ自慢のホーログを持っている。それは宝石で出来ていたり、焼き物だったり。

挨拶の時はそれを互いの手の中で交換し、嗅ぎ終わると相手に戻す。


 そういえば、伯父さんのホーログも大理石で出来た立派なものだった。大変な誇りを持っているので、怒るのも無理はないか。♣

モンゴルウォーカー活動における特別許可

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